【ランベリーで使っている牡蛎の話 (岸本直人)】
この時期、色々な種類のいい牡蛎はいっぱいありますが、ランベリーではやっぱり一番思い出のある厚岸の牡蛎を使わせてもらっています。
特徴としては厚岸産の牡蛎はシングルシード方式で、厚岸古来の天然牡蛎の 味、幻の味であるということです。
なぜ幻の味というのか・・・
大昔は大量にあった厚岸の天然牡蛎は乱獲により、明治の終わりに激減したようです。
そこで厚岸町漁業協同組合が中心となり、厚岸古来の牡蛎を復活させるために山に植林し様々な挑戦をし、シングルシード方式を取って出荷に成功したと聞きました。
世間に出回る前の試験段階の時に、その牡蠣が銀座オストラルに送られてきまして、そこからのご縁で10年以上ずっと使わせていただいています。
まだ「かきえもん」の名で売られるかなり前で、この時はまだ2割程度の回復だったそうです。
小粒だけれども中がぷっくりとしていて、牡蠣殻も下にぷっくりとしている、 <自分が理想としていた牡蛎>そのものでした。
通常の牡蛎は一口にいれてしまうと口の中が牡蛎でいっぱいになってしまう、かといって半分に切ってしまっては中のエキスが出てしまいもったいない。
そう思い、悩んでいたときに出会ったのがこのシングルシードの厚岸の牡蛎でした。 厚岸に行き、中嶋さんに養殖から出荷まで見せていただきました。
何層かにわけて網に入れてゆらゆらと揺られながら育っているので、すべての牡蛎にプランクトンがいきわたり、ストレスが少なく、健康的な環境で育てられています。
そして水温が非常に低い為、牡蛎の殻が横に広がらずに下へ下へと深くなっていく。
この牡蛎を厚岸湾から厚岸湖に移して塩分濃度を調節しているそうなのですが、需要が多い時期はこの作業が追い付かなくなり、塩分が濃いこともあります。
でも、それがこの牡蛎の特徴であり、そういう部分を含めてこの牡蛎を使いたいと思って、ずっと使わせていただいています。
この牡蛎を育てている中嶋さんのお人柄に惹かれていることも、使わせていただいている理由の一つですね。
面白いことに中嶋さんご本人は牡蛎が食べられないという ではどうやって見分けているんですか?と尋ねると奥様が食べているとのこと。
ただ、「見ればわかりますよ」と笑って話す中嶋さんがとても印象的でした。
「シングルシードの見極め方」・・・殻にホタテの筋が入っていないこと。
通常の牡蛎は帆立に引っ付けて大量に海に沈められ、その分過密状態になる。
厚岸のシングルシード牡蛎は、形状はふっくらとした丸みを帯びた殻に育ち、 味わいはクセがなくとてもミルキーです。
「これまでランベリーで出してきた牡蛎の一皿」
クレソン・パッション・アボカドの三種類
まず、<クレソンとオードメール(海水)のミネラル>こちらはフランスで働いていた「エスペランス」のスペシャリティーを自分なりにアレンジしたもので、今年はさらに進化させ、クリームに混ぜるのは通常のクレソンですが、飾りに使っているのはクレソンの新芽です。
牡蛎殻にクレソンと生の牡蛎、エシャロットなどを混ぜたクリームを入れ、その上に50~55度という微妙な火入れをし、牡蛎のジュースの中で冷やし味をなじませた牡蛎を乗せる。 そして、海水の香りたっぷりの牡蛎のジュースをジュレにし、このジュレをたっぷりとかけて牡蛎を覆い、上には食感のとびこ、酸味の柑橘を乗せ、最後にクレソンの新芽を飾り完成する。
これは牡蛎の美味しさとダイレクトに感じていただける一皿。
次に考案したのはパッションフルーツと牡蛎という一皿。
牡蛎には白ワイン、特にシャブリと言われていますが、厚みのある白ワインはパッションフルーツやマンゴー、パイナップルなどの要素を持っています。
そこで、牡蛎とパッションフルーツを合わせることを思いつきました。 ただ、それだけでは完成しない・・・つなぎが必要だと思い、パッションフルーツと相性のいいトリュフを合わせてみると、これがピタッと決まり一皿が出来上がりました。
アヴォカドに関しては何か表面を覆いたいというところから、見た目もきれいで牡蛎のミルキーに対しアヴォカドのバター感を合わせ、存在感のある一皿を考えました。
ミリ単位の薄いアヴォカドスライスで覆っていますが、その厚みで完成度も大きく変わってしまうとても繊細なバランスの牡蛎とアヴォカド、そこにシトロンキャビアと生姜でアクセントをつけ、全く新しい牡蛎の一皿となりました。
主に初冬の季節、ランベリーでは歴代のこの牡蛎をコースの前菜としてご用意しております。 ぜひ、この【厚岸の牡蛎】を使った一皿をお召し上がりくださいませ。
※コースによってご提供する内容が異なりますのでご了承ください